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【書評】サブスクリプション

「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

· 書評,ビジネス

【書評】サブスクリプション 

〜「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル〜

今のところ、今年読んだビジネス書の中で最も面白い本です。ちなみに昨年は「SHOE DOG」でした。

この本に興味を持ったのには2つの理由があります。

ひとつは、「おそらく今後ビジネスを構築していく上で、仮にサブスクリプションビジネスを展開しなくても、理論を押さえておかないといけないだろう」と感じていたからです。わかりやすく言うと、別にSNSサービスを展開していなくても、シェアの文化とか若者の消費行動を知っておいたほうがいいわけです。サブスクリプションが流行る背景には、消費行動や消費に対する思想の変化があると思った。なので、これはビジネスをする上で正しく理解しておくべきと思った。

もうひとつは、サブスクリプション元年って一応2016年と言われているのですが、ちゃんと理解している人って自分も含めてまだ少ないよな、と思っていたから。

実は1年くらい前に、SNSでちょっともめたことがありました。ある女性起業家が、月々いくらの契約で、毎月家に飾る切り花が届くという”サブスクリプションサービス”を始めると書いていました。

私は素朴な疑問として、「それはただの定額課金で、サブスクリプションサービスとは言えないのではないか?」と純粋な好奇心で質問したのですが、「だったらサブスクリプションの定義を教えろ」と。

いやいや、私が質問しているんですし、私はユーザー側なわけですから、事業主であるあなたが答えてくださいよ、と言ったら私の投稿をSNSにシェアして「こんな事言われた!」と。で、また周囲のお友達が「うん、確かに定額課金ですね、、、」って書くという(苦笑)

そのサービスがちゃんとスタートしたのか、いまもあるのか知りませんが、何しろ「定額課金」と何が違うのかを私もちゃんと説明できなかったのがずっともやもやしていたわけです。

成功したサブスクリプションは生活に溶けている

日本でもたくさんサブスクリプションサービスが生まれています。でも、成功しているところってわずかだと思います。そして、成功しているところは、もはやそれが「サブスクリプションかどうか」なんてことが議論にならないくらい浸透している。自分が使っているところだと、まあ有名すぎるSpotifyAdobeは置いておいて、会計サービスのfreeeもそうですね。でも、この本を読むまで、freeeのサービスがサブスクリプションだと意識したことはあまりませんでした。

念のために裏取りしたら、freeeさんはこの「サブスクリプション」の著者の会社であるZuoraのサービスを使っている。なんだかいろいろ繋がりました。

製品中心から顧客中心の時代へ

一方で、たくさんのサブスクリプションサービスが出来ては消えています。独立に際して「まずは『リーンスタートアップ』を読め!」と言われた私としては、サクッとやってサクッと潰すのは全然ありなのでいいのですが、しかし「潰れるべくして潰れたなあ」というものも多数見かけます。そういうサービスの場合、致命的に間違ったのが「サブスクリプションサービスを”ただの定額課金サービス”と読み違えた」ということではないでしょうか。

この本を読んでわかったのは、自分が想像したとおり、これはビジネスの仕組みの変化というより、消費行動や消費に対する哲学自体がまるっきり変わった中で、ビジネスの仕組みがピタッとハマった、ということです。書籍の中ではそれを「製品中心から顧客中心へ」と表現しています。

最新のサブスクリプションサービス

正直、私はあまり勉強家ではないし海外経験も乏しいので「そんな物は知っているよ」と言う人も多いかもしれないけれど、いくつか本文の中から、最新のサブスクリプションサービスを引用します。

ボルボXC40(コンパクトSUV)は月額600 ドルで利用 できる。それにはコンシェルジュサービス が含まれている。保険、保守、消耗部品の交換、年中無休の24時間カスタマーサポート等、燃料以外はすべて含まれている。

<中略>

カー・サブスクリプションの多くは、月ごとに契約することができる。『スレート 誌のクリスティーナ・ボニントンは「1年のうち、仕事中心の10カ月は電車やバスを使い、あちこち出かける機会の多い 残り2カ月はサブスクリプションでクルマを利用 する、といっ たこともできる」と述べている。

ティエン・ツォ; ゲイブ・ワイザート. サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル (Kindle の位置No.1079-1082). ダイヤモンド社. Kindle 版.

サーフエアは「 航空業界のネットフリックス」とか「空のウーバー」などと呼ばれている。メンバーになると、定額の月額料金で無制限で飛行機に乗れる。いまのところ米国西部と欧州で急速に成長している。

<中略>

会員は電話で、いまから乗れる次の便を確認して予約することができる。優先搭乗できるので、すいすい進んでいける。 西海岸を始終飛び回っているズオラの社員にとっては、すべてが一変するような体験 だ。

ティエン・ツォ; ゲイブ・ワイザート. サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル (Kindle の位置No.1222-1226). ダイヤモンド社. Kindle 版.

ね。なんか、ワクワクしますね。

サービスが完成することは一生ない時代が来た

話を戻すと、私ですら「サブスクリプションサービスはただの定額課金だと思ったら死ぬな」と感じていたくらいなので、頭のいい人はとっくに気づいていると思いますが、他にも様々な要素があるわけです。そのひとつが「常に顧客データを取れて、かつ常に満足させ続けなければならない」ということと、その結果「サービスが完結しない」ということです。書籍の中では、「Gメール」が常にベータ版である、という話を引き合いに出しています。

現代のソフトウェア設計の基本原則を世に知らしめたものと言える。Gメールは、断続的に繰り返される当たり外れの大きいプロダクトサイクルの終わりを告げ、終わりなき開発が続くプロダクトの誕生を告げたのである。

ティエン・ツォ; ゲイブ・ワイザート. サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル (Kindle の位置No.2615-2617). ダイヤモンド社. Kindle 版.

昔だったら、売ればおしまいだったわけです。TV買った人が、そのあとTVが砂嵐になっちゃって45度の角度で叩かなきゃいけなくなっても、離婚して「こんな大きなTVいらないわ!」となっても知らんわけです。でも、サブスクリプションサービスの場合は、常に顧客であり続けるし、満足行かなくなったら解約となるわけです。契約が簡単で、その時のニーズに合わせて気楽にプラン変更もできる仕組み、そういう物が必要ですし、そういうものが用意できれば、長いお客さんであり続ける。

この新しい世界では物事はすべて顧客から始まる。実を言えば、これは個人やパーソナライゼーション を強調するワン・トゥ・ワン(one-to-one)マーケティングそのものであっ て、この20年の大きなトレンドである。しかし、大切な事実は、サブスクリプション・サービスほどワン・トゥ・ワン・マーケティングをよりよく実現する方法はないということだ。サブスクリプション・サービスはまさに1対1の 関係を構築する仕組みなので ある。

ティエン・ツォ; ゲイブ・ワイザート. サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル (Kindle の位置No.2811-2815). ダイヤモンド社. Kindle 版.

サブスクリプション・ビジネスにおいては、何か新しいものを提供するときには、利用者の価格感度を測定するABテスト〔少数の選択肢を提示して、どれが好ましいかを検証する方法〕を機敏に行う能力が不可欠だ。

ティエン・ツォ; ゲイブ・ワイザート. サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル (Kindle の位置No.3652-3654). ダイヤモンド社. Kindle 版.

おそらく、この辺を読み違えると、痛い目にあうわけです。

本書には、消費動向がどう変わったのか、サブスクリプションサービスを行う上で注意すべきビジネスのプランニング、プライシング、様々な最新事例が紹介されています。これらは、自分が事業主でサブスクリプションサービスを開始しようと考えている人はもちろん、冒頭にも書いたように、消費者がどう変化しているかを知る上でも、2019年必読の書だと思います。

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タイトル:サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

著 者 :ティエン・ツォ (著), ゲイブ・ワイザート (著), 桑野 順一郎 (監修, 翻訳), 御立 英史 (翻訳)

出版社 :ダイヤモンド社

発売日 :2018年10月25日